大分県大分市で長い歴史を歩んできた印刷会社との計画が動きはじめました。印刷媒体のデジタル化、安価で短納期のネットプリントの普及、そしてその流れを加速させたパンデミック。近年のこうした変化でクライアントは大きな影響を受けましたが、これはおそらく全国各地の印刷所に起きていることで、私たちのような編集や設計者も含めた業界全体が岐路に立っているのを日々肌で感じます。
印刷という技術の目的が情報の複製と伝達だとするならば、ウェブが普及した現代ではすでに社会的な役目を終えているのかもしれません。しかし、個人の感情においては今も変わらずインキの質感や紙の手触り、そして物質としての情報に対してある種の情緒を抱くことも紛れもない事実で、そこには単なる情報伝達を超えた働きが存在しています。
印刷と九州の関わりは深く、日本の活版印刷は16世紀末に天正遣欧少年使節が印刷機を長崎に持ち帰ったことが始まりと伝えられます。使節団は豊後国の戦国大名である大友宗麟らにより派遣されたことから、その影響は大分の地にも少なからず及んでいたはずです。ますます変化し混乱していく時代に印刷で何が出来るのかを、この地で改めて問うことに大きな意義を感じます。