広島県の備後地方で野生動物の捕獲と食肉加工を行う業者を取材し、猪の猟に同行しました。狩猟で捕らえた野生動物の肉や料理はフランス語のジビエと呼ばれますが、近年増え続ける農作物や森林の鳥獣被害の対策として、全国各地でジビエの消費拡大を促す取り組みが広まっているそうです。
今回の取材で特に印象に残ったのが、二頭の猪と猟師たちの戦いでした。人家にほど近い山裾に設置された檻に案内されると、猟師いわく「小さい」猪が目と鼻の先で荒々しく鼻息を立て暴れ回っています。その様子から生身の人間では命が危ぶまれることはひと目で分かり、雄の一頭が手足を拘束される最中に断末魔の叫び声をあげた瞬間は、恐怖と憐れみが入り交じり言葉を失くしてしまいました。捕獲作業が始まって数十分が過ぎたでしょうか、若い猟師の手で四肢と顔を縛られ身動きが取れなくなった二頭は、運搬車に積まれ加工所へと連れて行かれました。
二日間の滞在中は見聞きするもの全てが強烈でしたが、狩猟は決して遠い世界の文化ではなく、人間の暮らしを支えるために私たちのすぐ傍で行われてきた営みであることに気がつきます。取材が終わり商業施設が立ち並ぶ福山駅へ戻ると、構内の華やかな風景と命のやり取りを見た山中とのコントラストに唖然とし、生きるということについて考えざるを得ませんでした。